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納税者有利の原則

(2012年7月20日 16:56)
「納税者有利の原則」をご存知でしょうか?

わかりやすい事例を紹介しましょう。
端数処理に関することになりますが、これが一番分かり安いですね。

端数処理で真っ先に思いつくのが、月数の計算です。
減価償却資産の当該事業年度の月数ですが、
税法の規定は、「1月に満たない端数を生じたときは、これを1月とする。」
となっています。もしも、これが切り捨てられたら、
減価償却額の限度額計算が少なくなります。

4月から3月の事業年度の法人が、10月の途中に100万円で
新車の乗用車を事業の用に供したとすると、
当期の減価償却費は、次のようになります。

100万円×31.9%×(6÷12)=159,500円

ここで、月数が切り捨てられた場合は、こうなります。

100万円×31.9%×(5÷12)=132,916円

このように税法では、納税者有利の原則によっています。
ただし、計算方法が複数用意されている場合は、
納税者自身が自分に有利と思う方法で計算することになります。
つまり、選択肢がある場合は、自分で有利かどうかを判別して、自己の責任で選択することになるのです。

例えば、所得税の控除額の計算で、「公社債、剰余金、利益の配当など」の場合は、
個別法による場合と銘柄別簡便法による場合が用意されていています。
納税者はいずれか、有利な方で計算することになります。そのどちらを選択しても、認められます。

このように、税法が作られている背景として、
ちょっと「怪しい」部分は納税者有利になるように作られているので、
これをもって「納税者有利の原則」が存在すると解釈されているわけです。

しかし、このあたりがややこしいのですが、
あくまでも「条文解釈」において、どちらとも解釈できる場合に、納税者に有利なように解釈してもいいですよ、
という原則ではありません。

あくまでも、明文の規定がない場合などは、「納税者有利の原則」を勘案するということです。

裁決事例にも「納税者有利」が争点の事案があるのですが、
公開裁決にはなっていないので、そのままコピペして載せておきます。

※下記裁決は検索で「納税者有利」と検索すればヒットします。
http://www.kfs.go.jp/cgi-bin/sysrch/prj/web/pub/editCriteriaByKeyword

裁決番号 平220060
裁決年月日 平220915
裁決結果 棄却
争点番号 100203070

【裁決要旨】
請求人らは、土地の評価の安全性をかんがみれば、複数の隣接する貸家建付地を一体で評価することによって、納税者有利に広大地の評価をすることは合理的である旨主張する。
しかしながら、宅地の評価単位について、
財産評価基本通達7.2は、利用の単位となっている1区画の宅地を評価単位とする旨定めている。この評価単位の判定は、

宅地の所有者による自由な使用収益を制限する他者の権利の存在の有無により区分し、他者の権利が存在する場合には、その権利の種類及び権利者の異なるごとに区分することとされており、貸家建付地の評価において貸家が数棟あるときには、原則として、各棟の敷地ごとに区分して評価することとなる。(平21. 4. 6 東裁(諸)平20-151)
【裁決要旨】
請求人は、国税通則法第23条第4項は、更正の請求に対して更正をすべき理由がない通知処分に係る理由附記について何ら触れておらず、所得税法第155条第2項も、配当所得に関する更正処分の理由附記について何ら触れていないが、同時に理由附記が必要との明確な規定も存在しないから、納税者有利に解釈し、不利益処分の場合には当然に理由を明記すべきである旨主張するが、それらの主張は、請求人の独自の解釈をいうものにすぎないから、採用することができない。
(平22. 9.15 東裁(所)平22-60)

ここまでは、

・税法の規定=「納税者有利の原則」に則っている(はず)
・税法の解釈=明文規定および立法趣旨から公平に勘案
・税法の明文規定がないもの=「納税者有利の原則」を考慮してもいい

となっていることを説明してきました。

さて、税務調査において問題になるのは2パータンあって、
1つが「税法の解釈」ですが、もう1つは「事実認定」です。

例えば、社長の妻が役員になっていたときの役員報酬において、「勤務実態がない」として過大役員報酬だと否認指摘されるのは、これは税法論ではなく、事実認定の問題になるわけです。

このような「事実認定」については、似たような概念として「疑わしきは納税者の利益に」という原理があります。

つまり、調査官が調べてみたのだが、否認できるだけの根拠が明確にはない場合、刑事事件と同じで「疑わしいだけでは否認できない」という原理・原則なのです。

研修では事実認定等において「納税者有利」を学び、覚えている調査官も多いと思います。

税務調査において、確証がない事実が出てきた場合、調査官はそれでも否認しようとしますが、それは上記の原理から間違っていることを反論すべきです。

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